徳島地方裁判所 昭和60年(ヨ)77号 決定 1985年7月19日
申請人
村井豊一
右訴訟代理人弁護士
林伸豪
同
川真田正憲
被申請人
西阿生コン株式会社
右代表者代表取締役
牛尾テルヱ
右訴訟代理人弁護士
中田祐児
主文
被申請人会社は申請人を被申請人会社大歩危工場の従業員として取り扱い、かつ申請人に対し昭和六〇年二月一九日から本案訴訟の第一審判決言渡しに至るまで毎月一〇日限り一か月金一八万四一九一円の割合による金員を支払え。
申請人のその余の申立てを却下する。
申請費用は被申請人会社の負担とする。
理由
一 申請人の本件仮処分申請の趣旨及び理由、並びにこれに対する被申請人会社の答弁は別紙出向命令無効確認仮処分申請書及び答弁書に記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 被申請人会社は生コンクリートの製造及び販売等を業とする株式会社であり、申請人は被申請人会社に雇傭され、昭和六〇年二月七日当時、生コンクリートミキサー車(以下「生コン車」という。)運転手として被申請人会社大歩危工場に勤務していたものであるところ、右同日、被申請人会社から、以後西阿産業株式会社(以下「西阿産業」という。)にダンプカー運転手として勤務すべき旨の命令(以下「本件命令」という。)を受けたことは一件記録上明白である。
2 そこで、本件命令の効力について検討する。
(一) 本件疎明資料によれば、次の事実を一応認めることができる。
(1) 被申請人会社と西阿産業は共に「西阿グループ」と呼ばれる企業グループに所属しており、「西阿グループ」は牛尾良太郎(以下「牛尾」という。)が創立した建設関連企業グループであって、被申請人会社、西阿産業のほか、株式会社牛尾組、西阿砕石株式会社、西阿土木株式会社、有限会社西阿工業の六社から成り、グループ所属の各社が、例えば被申請人会社は生コンクリートの製造、販売部門、西阿産業は砕石の輸送部門というように、それぞれ建設関係事業の一部門を分担しつつ、全体として総合的な建設関連事業を営んでいる。そして、グループ所属企業における従業員の給与支払業務、資材の発注等の事務は、別に西阿グループ本社という組織が設けられていて、ここで一括処理されることとなっており、グループ所属企業間の人事交流もかなり盛んである。グループ所属企業の経営者についてみると、前記六社のうち被申請人会社と有限会社西阿工業を除く四社の代表取締役は牛尾であり、残る二社も名目上はともかく実質的には牛尾が実権を握っている。各社の株式等もその大半を牛尾及びその一族が所有しており、「西阿グループ」は全体として同人の個人企業としての性格の濃厚な企業集団である。
しかし一方、グループ所属企業は、それぞれ独立の法人格を有し、独自の事業を営んでいることはいうまでもないし、従業員の採用も各企業が独自に行い、従業員との間で雇傭関係を結んでいるのであって、グループ所属企業全体としての統一的な人事管理方式がとられているわけではない。また、西阿グループ本社もそれ自体としては独立の法人格を備えているわけではなく、グループ所属企業を統括し、その事務を一括処理するための組織にすぎないものと見ることができる。
(2) 申請人は昭和五五年七月一日、被申請人会社に生コン車運転手として採用され、被申請人会社池田工場に勤務していた。その後、昭和五七年四月一日、被申請人会社の業績不振を理由にいったん解雇されたが、同年七月一日、再び生コン車運転手として採用され、昭和五九年四月九日までは池田工場、翌一〇日からは大歩危工場に勤務していた。この間生コン車運転手以外の職務についたことはないし、グループ所属の他企業に出向したこともない。
(二) ところで、被申請人会社は「本件命令は、実質的には一つの企業集団を構成する企業間の異動を命ずるものであって、一つの企業内の配置転換と同視しうるから、これについて従業員の同意は不要である」と主張する。
なるほど、被申請人会社と西阿産業とが「西阿グループ」に所属する企業として密接な関係を持っていることは前判示のとおりである。しかしながら、右両社はあくまで別個の法人格を持った独立の企業体なのであって、前認定の事実関係から直ちに、「西阿グループ」そのものが一つの独立した法人格を有していると見るのは困難であり、したがって、申請人にとってみれば、本件命令が使用者の変更という事態をもたらすことも否定できないところである。しかも、前認定のとおり、グループ所属の各企業がそれぞれ別個の営業部門を担当し、異なる業務を営んでいるという関係上、申請人のような現場作業員にとってみれば、他企業に移籍することによりその勤務型態には少なからざる変化が生ずることが予想されるにもかかわらず、就業規則等において、これを調整するための配慮がされている形跡は見られない。
のみならず、前認定の事実に照らせば、被申請人会社においては、申請人は生コン車運転手として稼働することが両者間の労働契約の内容をなしているものと認める余地が多分にあるところ、申請人は、本件命令により以後ダンプカー運転手として稼働することを余儀なくされるわけであり、本件疎明資料によれば、生コン車運転手とダンプカー運転手とでは大型車両の運転という点では類似性があるものの、その勤務型態には一日の運行距離、手待ち時間の長さ等の点で大きな相違があり、申請人は腰痛という持病があるため、ダンプカーの運転には耐えられないとの判断から被申請人会社に採用される際には、とくに生コン車運転手として使ってほしい旨の申出をしていることが一応認められる。
以上の諸点に照らしてみると、本件命令は、契約の当事者(使用者)及び従事すべき職務の内容のいずれの面においても労働契約の内容に変更をもたらすものであって、被申請人会社が申請人の同意なしに一方的に発することはできないものというべきである(この点に関して、被申請人会社は、申請人が本件命令に従えばその希望のとおり池田町で勤務できることとなるから通勤時間の点で有利になると主張するが、このことは、右同意の要否の判断に影響を及ぼすほど重大な意味合いを持つものではない。)。
(三) 被申請人会社は、「西阿グループ」内においては企業間の従業員の異動はその同意なしに行うことができるという労働慣行が成立していたと主張する。
たしかに、グループ所属の企業間で人事交流がかなり盛んに行われていることは前認定のとおりである。しかしながら、本件疎明資料によっても、右のような人事交流が従業員の意思と関係なく行われ、これが労働慣行として確立しているとまでは認め難く、被申請人会社の主張は失当といわざるをえない。
(四) そこで、本件命令について申請人の同意があるかどうかについて検討する。
まず、被申請人会社は、申請人が就職に際し、本件命令のような態様の異動につき包括的に同意したと主張するが、本件全疎明資料によっても、右の主張事実を認めることはできない。また、被申請人会社は、本件命令は申請人の希望に基づくものであると主張するところ、本件疎明資料によれば、申請人が被申請人会社大歩危工場長に対し何回か「大歩危工場では通勤が大変なので池田工場に戻りたい」という趣旨の希望を述べたこと、そして、昭和六〇年二月五日に牛尾と懇談をした際にも同趣旨の発言をしたことが一応認められるが、右発言は、あくまで被申請人会社池田工場において生コン車運転手として勤務したいという希望を述べたのに止るのであって、池田町内で勤務することができるのであれば、他の企業で生コン車運転手以外の職務に従事することも容認するという趣旨まで含むものであるとはとうてい解されず、ほかに本件命令につき申請人の同意があったことを認めるに足りる資料はない。
以上の次第で、本件命令は、申請人の同意を得ないで発せられたものであるから、その効力を生ずるに由なく、したがって、申請人は現在も被申請人会社大歩危工場の従業員としての地位を有するというべきである。
3 次に、申請人が昭和六〇年二月一九日以降被申請人会社大歩危工場において就労することを拒絶され、賃金の支払いも受けていないことは一件記録上明らかであるところ、本件疎明資料によれば、申請人は被申請人会社から支給される賃金を生計の手段とする労働者であることが認められるから、右のとおり就労を拒否され、賃金の支払いを受けられない場合、日常生活に困難を来すなど著しい損害を被るおそれがあり、この損害を避けるためには申請人が被申請人会社大歩危工場の従業員としての地位を有することを仮に定めたうえ、本案訴訟第一審判決言渡しに至るまで賃金相当額の金員を従前と同一の条件で仮に支払わせる必要があると認められる。
そこで、本件疎明資料に基づき、過去三か月間(昭和五九年一一月から同六〇年一月まで)の申請人の平均賃金額を算定すると、その結果は一か月一八万四一九一円となり、右資料によれば、被申請人会社の賃金支給日は毎月一〇日であることが認められる。
三 よって、申請人の本件申請は主文掲記の限度で理由があり、その余(賃金仮払請求のうち主文掲記の金額を超える金員の支払いを求める部分)は理由がないから、右の限度で保証を立てさせることなくしてこれを認容し、その余の部分を却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法九二条但書、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 以呂免義雄 裁判官 鶴岡稔彦)
出向命令無効確認仮処分申請書
申請の趣旨
一、被申請人は申請人を被申請人会社大歩危工場の従業員として取り扱い、かつ申請人に対し金二九二、七七三円と昭和六〇年五月から毎月一〇日かぎり金一九七、六一三円を支払え。
二、申請費用は被申請人の負担とする。
との裁判を求める。
申請の理由
一、当事者
申請人は被申請人会社大歩危工場(三好郡山城町大歩危所在)に、コンクリートミキサー運転手として勤務する従業員であり、被申請人会社は三好郡池田町白地に本店を置く、主に生コンクリートの製造及び販売を業としており、三好郡池田町に池田工場、同郡山城町に大歩危工場、同郡東祖谷山村に祖谷工場の三工場を有する会社である。
二、被申請人の申請人に対する処分
申請人は後記のとおり、主に建設労働者等で組織する全日自労建設一般労働組合徳島支部西阿分会に属する組合員であるが、昭和六〇年二月七日から同月二二日にかけ四回にわたり、被申請人会社と別会社である三好郡井川町西井川に本店のある西阿産業株式会社のダンプカー運転手として勤務するよう通告をうけ、また同月一八日には、同月一九日より被申請人会社大歩危工場での就労を禁止する旨の通告を受けた。
申請人は右通告後、同月一九日も大歩危工場へ行き就労を要求したが、矢野工場長から就労の拒否をされ以降、給与の支払いも一切なされていない。
三、被申請人の申請人に対する右処分の無効
(一) 右処分は申請人に対する職種の変更をともなう出向ないし転籍命令であるところ、申請人の同意なくしてなされたものであり無効である。
すなわち、申請人は以前から持病の腰痛があるため勤務時間中、車両の運転時間が多いダンプカー運転では身体の維持ができないゆえ、比較的運転時間の短いコンクリートミキサー車の運転手として稼働することを条件として就職したものであるところ、右処分はコンクリートミキサー車の運転手からダンプカーの運転手を命ずるものであり、職種の変更をともなうものであり、また被申請人会社以外の他の会社である西阿産業株式会社への就業を命ずるものであって、労働条件に重大な変更を加えるものである。
かかる場合には労働契約に明確に定めがある場合の外は、労働者たる申請人の同意がなければ処分は無効と解すべきところ、右処分について、申請人は同意していないものであるから無効のものである。
(二) 申請人の属する全日自労建設一般労働組合と被申請人会社との間で、昭和五九年一一月二八日、団体交渉が行なわれ、組合員の労働条件の変更をするさいは事前に組合と協議をする旨の約束に違反してなされたもので無効である。
(三)1 本件処分は被申請人が労働組合を破壊せんとし、申請人に対して、不利益な取扱いをするもので労働組合法第七条一号・三号に違反する無効なものである。
すなわち
(1) 昭和五九年年末に組合へ加入した申請人に対し、昭和六〇年一月一〇日頃、大歩危工場矢野工場長が申請人に対し「村井さん、組合へ入っていないんだろう、休憩室等で組合があったらええとか、組合的発言は絶対いわないでくれ、今後このようなことがあったら池田へ帰れんようになる、このことは本社の牛尾専務も城尾部長もいっていた」との組合攻撃発言をなし
(2) 同年一月末頃、東口安全部長が申請人の兄を通じ組合脱退工作をし、将来は課長ぐらいの待偶を考えているとの利益誘導をし
(3) 同年二月一日には矢野工場長が「大歩危工場に全日自労という組合ができて残念である、工場長として身体をはってでも会社を守る」旨の発言を作業終了後のミーティングで行い
(4) その頃から矢野工場長の組合員切り崩し工作が激烈をきわめ、組合員の親・兄弟・知人・議員等を使っての脅し、利益誘導が頻繁に行なわれた結果、二月七日付でそれまで大歩危工場のコンクリートミキサー運転手で構成していた組合大歩危工場班のメンバー八名のうち森脇正至分会副委員長と班長である申請人を除く六名が集団で組合脱退するに至り
(5) 二月一三日には大歩危工場の工場長を執行委員長とする西阿グループ労働組合なる全く自主性のない第二組合をデッチあげるなどの攻撃を加えてきた。
2 右のような被申請人の組合攻撃の中で、同月七日に牛尾泰造専務取締役、山田総務部長から突如「池田地区への配転が決った、西阿産業でダンプに乗ってくれ、二月九日から」との通告を受け、同月九日、配達証明にて右同旨と思われる文書の配達を受け(これは開封しないまま後日、被申請人に返却した。)同月一五日には大歩危工場内で山田総務部長が「配置転換に関する再々通知書」なる前同旨の文書を読みあげて申請人に通告し、さらには同月一八日大歩危工場内で前同旨の内容に、さらに同月一九日以降は大歩危工場で就労することを禁止する旨、また同月二二日には西阿産業株式会社で就労しない限り賃金を支給しない旨の通告を各受けた。
3 右各通告は前記の経緯よりすれば、申請人をその就労する職種を変更して不利益取扱いをし、全日自労の組合員数の多い西阿産業株式会社へ追いやり、大歩危工場での活動を不可能にするとともに森脇正至副委員長を大歩危工場内で孤立化させ、やがては組合を破壊せんとする不当労働行為意思にもとずく処分であり、労働組合法第七条に違反する無効のものである。
四、申請人は被申請人会社より支給される給料によって生計を営んでいるものであり、月額平均金一九七、六一三円の給料を得ており支払い日は毎月一〇日である。申請人には妻、小学校三年生の長男、幼稚園児の次男がおり、本年二月一九日以降の給与が支払われていないため生活に困窮しているものであり、今後このような状態が続くならば、申請人らの生活破綻は火を見るよりあきらかである。
なお、申請人の昭和六〇年二月分の給料は、同月一八日までの分として金一〇二、四五三円しか支払いを受けていないものである。
以上の次第で本申請に及ぶ。
答弁書
申請の趣旨に対する答弁
一、申請人の申請を棄却する。
二、申請費用は申請人の負担とする。
との決定を求める。
申請の理由に対する答弁
一、申請の理由第一項は認める。
二、同第二項の事実中、
1、申請人が全日自労西阿分会の組合員であるかどうかは不知。
2、その余の事実は認める。
三、同第三項の事実中、
1、同項中の一について
(一) 本件処分が職種の変更を伴う出向ないし転籍命令であるとの主張については争う。
(二) 申請人が以前から腰痛を持病として持っていた点については不知。同人は雇用の際に健康体である旨申告している。
(三) 申請人がコンクリートミキサー車の運転手として稼働することを条件として就職した事実については否認する。
(四) コンクリートミキサー車の運転手であろうとダンプカーの運転手であろうと、運転手という点においては何ら変わりなく、従って職種の変更とはいえない。
またコンクリートミキサー車の運転手と比較してダンプカー運転手の労働がきついとも一概にはいえない。
というのはコンクリートミキサー車の運転手の場合、注文者から時間場所の指定を受け、コンクリート打設の作業上の重要性から当該時間場所は厳格に守らねばならず、従って早い時には午前七時前後から就労し、また午後七時すぎまで残業しなければならないこともしばしばあり、また走行距離が二〇〇キロを超えることもあるからである。
一方ダンプの運転手の場合には本年二月から従来の走行距離を加味した給料の支払いを変更し、固定給となっているので自分の体調に応じた走行が可能になっている。
(五) 被申請人にしろ、西阿産業株式会社にしろ、申請外牛尾良太郎が統括代表者を務める西阿グループ内の各企業であって、実質的には被申請人はその生コン部門、西阿産業はその運輸部門にすぎず、これまで繁忙な部門から閑散な部門への従業員の移動はしばしば行われてきたものであって、労働条件にことさら大きな変更はなく、その実質は職場内の「配置転換」にすぎず、申請人の同意なく行いうるものである。このことは雇用の際の条件にもなっており、またこれまでもそのように行われてきているので一種の慣行となっている。
2、同項中の二について
申請人の主張事実についてはこれを否認する。
組合との事前協議の約束などは一切していない。
3、同項中の三について
(一) 1(1)ないし(5)の事実については被申請人の関知しない事実である。
本件の配置転換は申請人自身の希望と被申請人の仕事の都合上なされたものであって、申請人の組合加入ないし組合活動とは何らかかわり合いのないものである。
(二) 同2の事実については認める。
申請人の希望と被申請人の仕事上の都合で本件配置転換を決定し、申請人にその旨伝えたにもかかわらず、同人がこれに従わなかったためこのように何度も決定に従うよう申し入れたにすぎない。
(三) 同3については争う。
申請人も認めるとおり、西阿産業にも多数の組合員がおり、西阿産業への配置転換により申請人自身の組合活動が妨害される恐れはまったくない。
また申請人は本件配置転換により大歩危工場の森脇正至副委員長を孤立化させることを狙った旨主張するが、西阿産業から大歩危工場までの距離は車で四〇分程度のものであって、配置転換により森脇が孤立化することはありえない。
四、同第四項の事実中、
1、申請人が月額平均一九万七六一三円の給料を得ていたとの事実は否認する。
(証拠略)に明らかなように、申請人の基本給は賞与込みで昭和五九年度年額一七七万一三〇〇円(月平均一四万七六〇八円)にすぎず、また賞与、残業手当、通勤費等込みで年額二二九万六九〇〇円(月平均一九万一四〇八円)にすぎない。
2、その余の事実は不知。
被申請人の主張
一、申請人を被申請人大歩危工場から西阿産業に就労場所を変更する意味
1、被申請人は通常西阿グループと呼ばれる企業群の一つである。
西阿グループとは被申請人、申請外西阿砕石株式会社、同西阿土木株式会社、同株式会社牛尾組、同有限会社西阿工業、同西阿産業株式会社の六社からなる建設総合関連企業の総称である。
西阿グループ内の役割でみた場合、被申請人は主として三好郡内における生コン製造販売部門、西阿砕石は砕石部門、西阿土木は土木部門、牛尾組は県外における生コン製造販売部門、西阿工業は給油自動車修理部門、西阿産業は運輸部門をそれぞれ分担している。
また西阿グループ本社は三好郡井川町西井川一八七一番地に置かれグループ全体の人事労務管理、経理(例えば給料の支払い)、資材の調達、管理等を総括して行っているものである。
西阿グループの総括代表者は申請外牛尾良太郎であって、同人がグループ内各社の株式の大半を有している。
従って西阿グループで就労している者もそれを構成する個々の企業で働いているということよりも西阿グループで働いているという認識を持っている。
2、土木建設業の場合、季節やあるいは時期によって忙しかったり、暇であったりすることは一種の宿命的性格を持っている。
三好郡内の他の同業者の場合、季節的に暇になる春から夏にかけての間従業員を一時解雇してこの間就業手当を受給せしめて会社の負担を軽滅することが通常であるが、このようなやり方は一種の失業保険の不正受給に該当するものと考えられるため西阿グループの場合にはこのようなやり方を行わずグループ内の暇な企業から忙しい企業に労働者を移動させたり、又企業内での事業所の変更をひんぱんに行って調整を図ってきたものである。
従って西阿グループ各企業に就労する労働者にとっては企業内あるいはグループ内の配置転換は日常茶飯事のことであり、又このことは雇用の際にも十分説明してあるし、雇用の継続する間ほとんどの者が配置転換の対象となっているので認識し、一種の労働の慣行となっている。
さらに企業内あるいはグループ内の配置転換がなされても当該労働者の給料等の労働条件が大幅に変わることもない。
3、以上のような次第であるので申請人の今回の就労場所の変更は通常言われるような出向ではなく、配置転換にすぎないのであって使用者の都合により一方的に行いうるものである。
仮に又それが申請人の主張するように出向であるとしても西阿グループ内の配置転換については雇用の際にそのような配置転換がありうることを条件としているものであり、また労働慣行になっているから申請人の同意がなくても有効なものである。
二、申請人が配置転換の希望を表明したことについて
1、申請人は昭和五五年七月一日、被申請人に雇用されたものの同社の営業不振により昭和五七年三月三一日一旦解雇され、同年七月一日再雇用されたもので当初被申請人池田工場において勤務していたものの、同大歩危工場の業務が忙しくなったため昭和五九年四月九日頃、同工場に配置転換されたものである。
ところが申請人の自宅から大歩危工場までは三〇キロメートル以上離れ、かつ生コンの運転手の場合には顧客の都合により早朝(例えば午前七時頃)から勤務しなければならないこともあり、残業(例えば午後七時頃まで)もあったりして、通勤距離が遠いので同人より自宅近くで勤務したいという希望がしばしば示されたが、当時は山城地区災害復旧工事のため大歩危工場の業務が忙しくとうていその希望をかなえることができなかったのである。
2、ところで西阿グループの代表者である申請外牛尾良太郎は今年になってから従業員の生の声を聞き、これを経営に反映させたいとの考えからグループ内企業の現場事業所の定期訪問を始めたところ、昭和六〇年二月五日大歩危工場において申請人より「私は池田から通勤しているが遠くて大変だ。早出残業も多く、四〇才半ばを過ぎると体がきつい」という申出を受けた。
申請外牛尾良太郎としても右のような趣旨で事業所訪問を始めたばかりのことであり、できるだけ従業員の要望に答えていこうと考えていたところであったので、早速西阿グループの総括専務である申請外牛尾泰造に申請人の希望をかなえられるかどうか問い合わせたところ、同人は申請外西阿産業においてダンプの運転手が不足しておりこの補充を早急に迫られているとの説明を受けたので申請人を同社ダンプの運転手として配置転換するよう命じたものである。
3、このように本件配置転換は、申請人の希望に添えるように配慮した結果なのである。
三、申請人を配置転換するについての被申請人の必要性
1、先に述べたごとく申請人はもともと池田工場において就労していたところ、山城地区災害復旧工事が始まったため大歩危工場に配置転換を命ぜられ、昭和五九年四月九日頃より同所において就労を開始したものであるが、その後右復旧工事も一段落し、昭和五九年一〇月頃より大歩危工場の生コン出荷額が激減し始めた。またその頃より被申請人全体の生コン出荷額が激減し始めた。
従って大歩危工場の余剰人員をグループないのどこかの事業所に配置転換する必要性に迫られていた。
2、一方この頃申請外西阿砕石株式会社の砕石の販売が伸びはじめ、これを運搬している申請外西阿産業のダンプの運送業務が忙しくなった。
ところで申請外西阿産業は二台のダンプを運転手がいないため遊ばせており、どうしても一人ないし二人の運転手を確保し、砕石の運送業務に従事させる必要性に迫られていた。
3、結局本件の配置転換は被申請人においては余剰人員を削減する必要性と申請外西阿産業においては砕石の運送を行う運転手を増員するという不当(ママ)性に迫られてなされたものである。
四、不当労働行為の主張する反論
1、先にも述べた如く申請人に対する配置転換は申請外牛尾良太郎の従業員の生の声を経営に反映させたいという考えに基づき、申請人の希望に添おうという意図に基づくものである。
2、全日自労からは西阿グループの誰が組合員であるかということの正式通知はなく、殊に森脇正至も認める如く「大歩危工場では組合員がもっと増えるまで組合員名は秘匿」されていたため(<証拠略>)誰が組合員であるかということについては正確に把握されていなかったのである。
3、申請外牛尾良太郎も申請人から配置転換の希望が出された時、同人が組合員であるかどうかについては全く知らなかったものである。
従って申請人に対して不当労働行為をするために配置転換をなすなどと考え至る余地は全くなかったのである。加えて申請人を申請外西阿産業に配置転換させることによって申請人の組合活動が困難となることはありえないことである。
というのは申請人も自ら認めているように、同社には組合員が多いということであるので(申請書四頁)他の組合員の協力のもと活動がやりやすいということはあっても困難になることはありえないからである。
4、また申請人は、大歩危工場の森脇正至の孤立化を狙って申請人の配置転換を強行したというが、そもそも大歩危工場では組合員名が「秘匿」されていたのであるから、被申請人としてはどれだけの者が組合に加入しているのか知ることができず、申請人を配置転換することによって森脇の孤立化が図れるかどうか知り得る立場になかったものである。
さらに大歩危工場は、本社から車で四〇分程度の距離にあって常時往来が可能であり、森脇自身も池田に自宅があるということなので、申請人らとのひんぱんな会合等を行ないうるのであって、申請人を配置転換することにより何故森脇が孤立化するのか全く理解しがたいところである。
5、西阿グループ労働組合は、西阿グループの従業員の有志がその自主的判断によって結成したものであって、被申請人がその結成に援助したこともなく、その活動は同組合の自由に任されており、従って同組合の活動と被申請人とは何のかかわり合いもないのである。
五、結論
1、申請人に対する職場の移動は、実質的にみれば配置転換にすぎず、同人の同意なく行ないうるものである。
仮にそうでないとしても西阿グループ内の職場の移動については、その必要性からみて雇用の際の条件となっており、申請人の同意はあらかじめ得られていたものであって、本件の職場の移動につき同意がなくとも有効であり、また職場の移動は西阿グループ内の一種の労働慣行になっており、同意なくして行ないうるものである。
2、本件の配置転換は、申請人の希望と被申請人の必要性に基づいてなされたものであって合理性があるものであり、不当労働行為を目的としたものではない。